新たな感覚と出会える現代アート式茶室を完成させたい!
S-HOUSE Museum 移動式茶室建築プロジェクト【Lucy Styles(SANAAヨーロッパ・プロジェクトマネージャー)設計】
同時代を生き生きと体感できる美術館
S-HOUSE Museum外観
S-HOUSE Museumは、2016年、岡山県に設立されました。
もとは1996年、現SANAA(妹島和世+西沢立衛)が初の木造個人住宅として設計されたものを、SANAAから独立した建築家・周防貴之が改修し、芸術家と建物をつなぐ美術館として始動いたしました。
私たちは、詩人/美術評論家である瀧口修造の思想──「同時代の芸術こそ人々の心を豊かにする」という想いを受け継ぎ、“Prospective Museum(前方視的ミュージアム)”として、現代日本の芸術の最先端を体験できる美術館を謳ってまいりました。
そのため、展示中の現代アーティストたちによる作品は、10年計画で、固定した作家ごとに毎年新作がアップデートされています。いずれも自由な精神を基盤に、現代の芸術表現の在り方を探求し続けているアーティストたちの作品。1年毎に訪れていただけたら、その鮮烈なアートの魅力に触れていただけることと思います。
「茶」と「エロス」の融合による、新たな可能性を求めて
Chim↑Pom《It’s the wall world ボスティ(バングラデシュの貧民街)のチャイ屋》
2022年、S-HOUSE Museumの10年後を前方視し、さらなる成長、あるいは生成を目指すため、私たちはあるプロジェクトを立ち上げることにしました。
それは、「茶室 Tea Room」という建築プロジェクト。
茶室という空間と、エロティックなアートを組み合わせた、新しい体験の場を創造するのです。
茶道という1000年以上前から続く、この日本の伝統芸術は、とてもエロティックな様相を帯びています。密室に身を寄せ合い、同じ茶碗の茶をみなで頂くこの行為には、間接的な身体の接触があり、出会った者同士が交流を深める場にもなっています。
その空間は、作法で固められた場というより、純粋化された空間での遊びの場であるといえるでしょう。茶とはもともと遊びであり、茶人もまた、遊び人であるからです。
たとえば、そこに、「春画」というエロスを融合したとき、いったいどんな体験につながるのか?
春画とは、一般的には性的な絵として知られていますが、そこにはあるのはただの性的な消費ではありません。
葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川国芳などをはじめ、江戸時代に一世を風靡した浮世絵師のほとんどが、春画を描いていることが分かっています。彼らによる緻密な描写の美しさはもちろん素晴らしいものですが、突拍子もない描写には「笑い」が込められています。実際に春画は「笑い絵」とも呼ばれ、隠すべきものというより、みなで鑑賞し合うものでもありました。
茶と、春画。双方により織りなされる空間と体験が、どんなものになるのか。プロデュースする者として、私たちもいまから楽しみでなりません。
美の饗宴
目 [mé]《Distribution Works #2016》
岡倉天心は“The Book of Tea”(『茶の本』)のなかで、茶道の神髄は「不完全なもの」を崇拝することにあると書いています。また、芸術を十分に味わえるよう、同時代の生活に合わせた茶室を、個人の趣味に適するように建てられるべきだ、と。
私たちは今回のプロジェクトにおいて、茶室の設計を、Lucy Stylesに任せることにしました。彼女は、SANAAのヨーロッパにおけるプロジェクトマネージャー、および、ロンドンのArchitectural Association School of Architectureで講師を務める建築家です。
彼女の手により、茶室は、どんなことでも起こりうる小さな世界、箱庭として構築されます。また、移動型の茶室として、野点(室外での茶会)が可能であり、S-HOUSE Museumのさらなる展開の要となる建築物・作品となるでしょう。
そこに春画が展示され、さらにベッドも置かれる予定です。
横になり、茶を飲み、アートを鑑賞する。一人で、友達とで、恋人とで、家族とで。
それは一方の見方からしたら、そこにいるあなた自身と、あなた自身の体験とが、アートとして変貌を遂げているかもしれません。
S-HOUSE Museumは、同時代に生きるアーティストのための場所であるとともに、鑑賞者である、あなたのためにも開かれた場所です。
いわゆる「芸術鑑賞」というものに不慣れでも、なんでもいいのです。
ともに生きる人として、岡山の片隅で、空間を、茶を、春画というエロスに満ちた体験を、少しでも待ち望んでいただき、このプロジェクトを前へ推進するためのご助力をいただけるようでしたら、嬉しく思います。
茶室が完成した暁に、あなたを新たなアート体験へ誘えることを、楽しみにお待ちしています。
本プロジェクトの参加アーティストであるChim↑Pomとの出会いについてこちらから
https://vibes.media/articles/525
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メンター:花房香(S-HOUSE Museum 館長)
1951年岡山県生まれ
岡山県職員として臨床心理の現場に36年間勤務。その間、日本芸術療法学会長徳田良仁の推薦でアメリカにおける絵画療法研修の機会を得て、当時ニューヨークで活躍していた荒川修作、篠原有志男らとの交流を重ねる。
岡山県奈義町の町長・黒田貞太郎氏より美術館設立と運営について相談を受け、建築家・磯崎新の提案・協力を得て世界初のサイトスペシフィックな美術館、奈義町現代美術館(Nagi MOCA)をディレクション、1994年の開館より2年間主任学芸員として勤務。
芸術療法に関わる過程で、美術評論家・詩人の瀧口修造を知り、氏から影響を受けた芸術家、建築家、作曲家などを直接訪ね作品をコレクション。心理療法と現代美術コレクションを続ける中で、現代の美術館の展示形態が科学研究では評価の低いRetrospective(後ろ向き)や多数の芸術家を紹介する横断的な展示でしかない点に疑問を感じ、研究分野ではProspective(前向きと)呼ばれる形式に注目。2016年、芸術家を決めて芸術家たちに伴走するように年ごとに変化し続ける作品を収集、展示し続けるS-HOUSEミュージアムを開館。
宮脇愛子記念・花房財団
2014年4月18日、宮脇愛子記念・花房財団設立
2016年4月1日、S-HOUSEミュージアム開館
2017年4月、1周年記念シンポジウム開催、於:岡山市立オリエント美術館講堂
2017年5月17日、“NHK岡山もぎたて”放映「設立の経緯など」
2018年4月、2周年記念シンポジウム開催、於:岡山市立オリエント美術館講堂
2019年4月、3周年記念シンポジウム開催、於:岡山市立オリエント美術館講堂